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水墨画に役立つ楽しいデッサン入門 1-5

 水墨画に役立つ楽しいデッサン入門

1. 視点-5

(4の続き)

名画からデッサンのヒントを探る

1)郭煕「早春図」

郭煕「早春図」

 ここで今まで見てきた三つの視点の理解を深めるため、先人の名画を見てみましょう。最初は宋代の画家 郭煕(かくき)の「早春図」です。この絵は三つのすべての視点を一枚の絵の中に盛り込んだ名作です。

 対面する山の中腹に登り、眼下に広がる山裾から山頂までをなめるように眺めたような景色です。特にこの絵の見所は、画面の半分を占める「見下ろす視点」です。この視点は地平に広がるもの(水面、道、など)やそこに置かれたものを個々に見せたりするのに有効です。

 この絵では水辺があり舟があり人がいて、滝があり沢を遡ると楼閣に行き着く、と山の内容を示しつつ観るものを山の奥へと誘い込みます。きっと作者はこの風景を本当に見下ろしたのではなく、山中を歩き、目にした水辺の景色や滝や楼閣をイメージの中で上空から眺め、一つにまとめ上げたのでしょう。

 「見下ろす視点」は少し緊張感があり、また視線が地面にぶつかり、抜けていきません。背の高い木などの上への方向性も上から見ると消えてしまうので、全体に重たい雰囲気になりがちです。しかしここでは、見下ろす部分の両脇を水と春霞で白く抜きながら上の視点につなげ、早春の明るさ、軽さを失わないように工夫されています。

 画面中央では山を絞り込み、視線が山の両側に抜けて開放感のある奥行きを作り出し、上部は一転して、近寄りがたい崇高な山の姿を添え、実に懐の深い絵になっていると思いませんか。山の絵の中央に奥行きを取り入れた発想が、この絵を非凡な作品たらしめています。(1-6へ続く)

初出:「季刊・水墨画109 水辺を描く」日貿出版社刊

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