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温故知新 水墨名画鑑賞1 円山応挙「大瀑布図」

また
JUGEMテーマ:水墨画を学ぶ

私の描く作品は、イタリア等ヨーロッパをモチーフにしている印象が強いかと思いますが、絵づくりにおいては日本や中国の古典絵画にヒントを得て描いています。
温故知新 水墨名画鑑賞 と題し私の好きな作品を紹介し、描き手の立場から、その作品の非凡な表現を観てゆきたいと思います。
絵を、描き手の視線で観たり、新しい創作のヒントになれば幸いです。
第一回目は 円山応挙「大瀑布図」です。
この絵は全長3.5メートルに及ぶ応挙の大作です。瀧をスケッチしたことがある方は、よくお分かりになると思いますが、瀧そのものを描くのは構図的にとても難しい画題です。上から下まで落下する水を入れなければ瀧になりませんが、遠くから見て瀧全体を画面に入れると小さくなってしまい、水飛沫をあげ轟音が山にこだまする瀧の迫力が失われてしまいます。しかし、近づいて迫力のある波やしぶき等滝のディテールに迫ると細長い滝と言うイメージが出ません。そこをこの絵では、画面下半分を激しく波打つ滝壺にあて瀧の迫力を出しながら、同時に短くなってしまった画面上半分の瀧を、滝壺に岩を配して水面を細く見せ、滝壺と続けることで、全体として見ると画面の上から下まで長い瀧になっているように見せています。構図の工夫で、瀧の長さと迫力という相容れないと思われた二つの要素を、見事に描き切った瀧の名作です。
長い掛軸に仕立て、軸を壁から床に垂らし,垂直面から水平面に移り変わる画面を利用する発想から生まれた構図なのでしょう。

温故知新 名画鑑賞1 円山応挙「大瀑布図」1
滝は上半分までで短いが、滝壺とともに全体として細長く見え、滝のイメージを保つ。
 温故知新 名画鑑賞1 円山応挙「大瀑布図」2
(部分)臨場感のある滝壺の波、水しぶきの表現で迫力を出す。
温故知新 名画鑑賞1 円山応挙「大瀑布図」
白い水に黒い岩と、単調になってしまいそうな墨色の調子においても様々な工夫を見ることが出来ます。左右の岩の中ほどを明るくすることで、水と岩との調子のコントラストを弱め、瀧を岩の間に閉じ込めてしまうのを避けています。この部分を黒くしてしまうと、瀧が小さく見え、また絵が平板になってしまいます。黒く見えている岩もよく見てゆくと、水との境目だけを濃く描き、水の白さを際立たせています。
そして、水から離れるほどに淡くなることで岩の立体感を出し、また画面が不要なまでに黒くなるのを避けています。
水においては、画面の上下に少し墨を入れ岩とのコントラストを弱くすることで、画面中ほどの水の白さが際立ち、視線が自然にそこへと向います。画面が長い上に、画面の上下で視点が違うため(下;見下ろす、中;正面に見る、上;見上げる)、絵が上下に分かれてしまうのを、視線を中央に向けることで統一しています。
また滝壺の水を石の配置で右からぐるっと遠回りさせて、左手前に流したことで奥行を感じさせています。上半分の直線的で平板な壁のような滝に対し、下半分の滝壺で奥行を出すことで滝の全体の大きさを創り出しています。
といろいろな内容を語りながらも、最終的には松越しに真っ白な滝が涼しげに流れているといった期待通りの印象に落とし込んでいるのが、さすが人気作家の力量です。
見れば見るほど随所に施された工夫が見えてきて、「なるほど!」と絵描きも唸る名作です。

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