Art graph Talk / 篠原貴之×松川恵一

篠原貴之氏の作品をArt graph(アートグラフ)化し、Art graph工房 eniacから2015年3月より販売いたします。
販売を開始するに伴い、Art graphの事、販売に至った経緯などを画家 篠原貴之氏とArt graph工房 eniac(エニアック)の主宰者 松川恵一の対談でご案内いたします。

今回は対談第1回目です。

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Art graphとは?

21世紀の今、過去多くの表現方法や画材が「創造の世界」に誕生してきた。

顔料・染料絵具から始まり、テンペラ・油絵具・ポリマー絵具などの画材からCGへと表現技法と方法は変遷を続け、版画の技法では、木版、銅版画、リトグラフ、シルクスクリーン、デジタルプリントが時代の要請を受け、新たに開発された技法として出現した。

Art graphは、入力装置として大型のスキャナーと出力装置として高精細の再現が可能なインクジェットプリンターを利用した、リトグラフ・銅版画・セリグラフに続く21世紀の表現技法だ。

従来の版画には、大きな難点があった。表現者の表現手法を制約することだ。
リトグラフは、油と水の反発作用を利用する技法である。銅版画は銅版に傷を付け、インクを流し込み、左右逆転した構図をプレス機でプリントを行う。セリグラフは、写真製版等を使うことで、表現の手法の制限は少なくなったものの、1色1版の版の世界を世襲しなければならない。

それらの技法が20世紀の技法なら、Art graphは21世紀の技法で表現されている。表現者の表現手法を制約するものが殆ど無いと言っても過言ではなく、作家は心の思うままに、画面に表現することが可能となる。

そこには、版画の様な版の枚数の制限や、表現手法の制限や、画材の制限も存在しない。アナログで表現された作品をデジタルデータに変換し、再度、アナログに出力するのである。

スキャナ

大型スキャナー

インクジェットプリンタ

高精細インクジェットプリンター

matsukawa

松川 恵一 / Art graph工房 eniac 主宰

京都で38年に亘り、デザイン企画事務所を運営。

1989年からデジタル技術に触れ、時代の要望に応えるように、アナログ作品のデジタルアーカイブ化の業務を推進。
数多くのツールでの実験を繰り返し、最終的には入力の機器として、特殊設定したスキャナーにたどり着く。
Art graph工房 eniacでは、主宰者の松川が気に入った作品をArt graphにするサポートをしている。

shinohara

篠原 貴之 / 水墨画家

全国各地で展覧会活動を展開しながら、小説や雑誌の装画や、襖絵等も手掛ける。

Art graphと出会った時、この技法なら、水墨画の特徴を損なうこと無く、多くの人々の眼に触れて貰うことが出来るのではないか、墨の持つ段階無き濃淡、筆の息遣い、筆致、紙との相性から生まれる滲みなど、水墨画の特徴であり魅力である部分をオリジナルに限りなく近い形で再現出来るのではないか、という可能性を感じた。

水墨画の撮影出力の難しさ
《松川》

篠原さんの作品のスキャニングを手掛けるようになって改めて感じたのは、水墨画の筆致の再現の難しさでした。

《篠原》

水墨画は墨一色なので再現が簡単のように思われがちなんですが、微妙な墨色、紙の色はごまかしがきかず、微妙なトーンによる深みを出すことは出来ないと思っていました。

しかし、案内状の写真等、撮影をしたりスキャンしたものを使わざるを得ない状況はこれまでにもどうしてもあって、それに関しては仕方ないと諦めていました。それでも、どうにかイメージに近いものにならないか、自分が思う微妙なトーンや深みを出す技術はないものか、という思いを持ち続けていました。

《松川》

そこで私と篠原さんが出会うわけですが…

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《篠原》

正に青天の霹靂でした。
紙の質感から墨の濃淡、筆の息遣いまでもが表れていて…複製というより、新たに描いた自分の作品のようで、驚きました。描いた本人でなければ区別が付かないような、微妙なトーンや立体感までが再現されているんです。

前から興味があったんですが、他のスキャニングの機械や技術とどう違うんですか?

《松川》

基本的な技術は同じですが、私もデザイナーですので機器の開発の方々と少し左脳(笑)の位置が違うのかも。
技術の方は、如何に正しくデジタル化するかを問題にします。見る人間はアナログですよね!
その人間の目で見ることが大切と思います。即ち、人間の目は凄く精巧にできていますが、人間の記憶との相互作用でイメージと視覚が繋がるんですよ!物に光をあてるときに、影が無いと平面的になります。この部分が、日本の優秀な技術者には、とても不可解なことになります。

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《篠原》

この技法であれば、図録やポスター、絵ハガキなんかとは全く違う、自分の息遣いを込めた作品として多くの人の手元に置いてもらう事が出来ると直感したんです。
松川さんのおっしゃる通り、忠実に再現するというのは、実際には何に忠実に表すのか、これはとても難しい問題です。

例えば壁紙の色を決めるとき、小さなサンプルを見て決めても、実際に張られた壁の色は全く違う色に見えることがよくあります。同じ色でも、面積や置かれる位置や場所によって、明らかに色が違って見えます。それをサンプルと全く同じ色だから、同じ色を再現したというのか、それとも、色を変えても、出来上がった壁の色がサンプルを観た時の印象と同じ感じにするのか。

私は当然イメージを大切にします。高性能のデジタル技術と松川さんの感性が、私の絵のイメージの再現を可能にしてくれました。これは複製というより、再現という新しい表現です。

作品の版画(複製画)化について

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《松川》

篠原さんは個展等を通じてご自身の作品を発表されたり販売されたりしておられる訳ですが、複製を用いてまで多くの人の手元に…と思われたのには、何か思いというか切っ掛けがあるんでしょうか?

《篠原》

自分の著作を多くの人に見てもらいたい。この一点に尽きると思います。

《松川》

個展やギャラリーだけではそれは叶いませんか?

《篠原》

同じ著作物でも、例えば音楽や文学は発表されたとたんに、たくさんの人達の目に触れ、個人が各々で手元に置いて楽しむことが出来ます。
しかし、今の自分の活動では、個展に発表し、初日に売れて掛けかえられてしまった絵は、ほんの数人の目にしか触れることなく個人の元に旅立ってしまいます。物としての価値を持った『作品』はオリジナルの1点限りですが、ソフトとしての『著作』は、もっと広く色々な人に観てもらったり、使ってもらったりしてもいいんじゃないかと思っているんです。

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《松川》

と言うと?

《篠原》

音楽家のライブに対しCDがあるように、画家にもオリジナルの絵とCDにあたる複製があってもいいんじゃないかと思うんです。

《松川》

ライブの一期一会感とは全く別の、ライブに参加出来なかった多くの人がCDを手元に置く事でいつでもその音楽に触れられる楽しみというか喜びという訳ですか…

《篠原》

そうする事によって、自分の作品が多くの人に認知され、広く作品に対して興味を持ってもらえる。そしてライブに足を運ぶ人が増えて下さる。

テクノロジーが発達した今、創作活動を続けていく手段としては、画家としても当然考えるところではないでしょうか。
ただし、それを実現するには、音楽で言えば高音質高品質な録音が不可欠であるように、オリジナルの絵の持つ微妙なトーンやニュアンス、墨の濃淡や筆致を再現する必要があった。それを叶えてくれたのが松川さんとArt graphだったんです。

松川さんが私の絵に興味を持っていただき、完成した作品を今まで6年間無償で撮り続けて下さった。その年月と積み重ねが、Art graphの可能性を確固たるものにし、自分の思いに更に拍車をかけたと思っています。

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《松川》

そうですか!もう6年も経ちましたか!

篠原さんと出会った頃は、私自身が色々な面でこれからを模索している時期でした。
自ら作品をつくることを避け、他の人が創る作品を客観的に判断するには…それがプロデューサとしてのベストな判断であると考えていました。

そんな時期に篠原さんの人物画に出会った時に衝撃を受けたんです。
そこには、毛筆で書かれた一見、無造作とも思える筆の運びに何ら迷いもなければ無駄もない。言い方がおかしいですが、線や形に努力が見えない、努力する絵画には私自身は自信があったので、完全に嫉妬ですね。悔しいから、お金を取らないでプライドを優先したというのが本音です。

篠原さんが、Art graphを認めてくれるのは、私にとって篠原さんの作品に嫉妬したように、松川が関わった技法で同じように篠原さんに嫉妬してほしかったのだと、今、考えると思います。

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Art graph展開の展望

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《松川》

今後どのような作品をArt graphとして展開していく予定ですか?

《篠原》

まず多くの人に作品を見てもらいたいですね。

今までオリジナルではセキュリティ—の問題や、興行としての採算から難しかった小さな町や村でも、Art graphなら展覧会が可能になります。
離島の公民館や体育館、日本各地、国内外も問わず同時に、多くの人に見てもらえるようなネットワークを築いてゆきたいです。

《松川》

どういった人たちにArt graphを手にして貰いたいですか?

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《篠原》

今まで絵を求めたことのない人達に是非一度絵をもってもらいたいです。

絵ほど、住まいのイメージを簡単に変えてくれるものはありません。絵のある暮らしを楽しんでもらいたいです。空間に適した大きさに、リサイズ出来るのもArt graphならではの魅力です。

将来的には、私の著作を使う人が作品を作るところまでくると、Art graphの本領が発揮されるのではと思っています。

空間に合わせたサイズの絵にしたいとか、掛軸や襖絵にしたいとか、もっと原作者の想像を超えた利用が始まれば面白いですね。

まとめ
《松川》

Art graphは、オリジナルを出来るだけ忠実に再現する技法ではないと思っています。

作家に因って描かれた作品は、その作家の思いや、考えが頭の中、腕、手、指、筆を通して、紙やキャンバスや画布に表現されます。作家の肉体から絞り出された思いが作品と考えます。
残念ながら、画集やその他の印刷物では、それらの思いを再現することは不可能でした。

篠原さんの作品をArt graphで多くの人びとに伝えたいと考えました。
水墨画という、墨から生まれる絵画は歴史のある伝統的な技法であり、時代を生き延びてきた最先端の技法でもあると思います。
現代の最高峰のArt graphの技術でその歴史を再現し、篠原さんの思いを表現することに喜びを感じています。

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≪第一回対談 終り≫ この対談は、継続する予定です。